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2011年 10月 07日
運動不足は長寿の秘訣?
 ハスモンヨトウの蛹から出てきて、2010年10月27日に羽化したヤドリバエの一種(未同定・前記事参照)は、翌2011年1月7日まで、73日間生きていた。最後の方は翅がすり切れて多少みずぼらしい姿になりはしたものの、砂糖水をティッシュペーパーにしみこませた餌だけでずっと元気に生きていた。一体コイツの本来の寿命はどれくらいだったんだろうか。だが研究目的でもないかぎり、ハエの成虫なんぞ好んで飼育する人など皆無に近いとみえて、ハエ成虫の寿命がどのくらいかとか明記してあるような文献はなかなか見当たらなかった。
 それでも、実験動物としてよく継代飼育されているショウジョウバエについては、室内で大切に飼えば60日くらい、自然環境下ではその半分くらいの寿命という、おおざっぱな数字が出ている。「ハエ」の成虫の寿命は約4週間と書かれていたものもあったが、これは多分イエバエのことを指していると思われる。さらに、飼育した場合は80日程度生存するという記載もあった。飼育下での生育環境は、餌がじゅうぶんにあり、適温で、外敵のいない環境であるから、自然環境下での寿命に比べ長くなるのは当然と言えば当然だろう。
 ところが、飼育環境下でハエの寿命が延びる要因はそれだけではないらしい。狭い空間で飼育したハエ、つまり運動不足のハエの方が、長生きするというのである。

 これには、活性酸素の存在が関与しているのだそうだ。

 激しい運動、喫煙、ストレス、紫外線などが原因で体内に産生される活性酸素は、疲労や老化の原因となる有害な物質である。しかし、人間の体はうまく恒常性を保つようにできていて、活性酸素を作り出すシステムが存在する一方で、それを取り除く酵素の存在(防御システム)も同時にある。動物は、このような機能が備わることで生命を維持しており、活性酸素を処理する酵素の働きが高い動物ほど、寿命が長いと言われている。また、体重あたりの酸素消費量も寿命と密接な関係があり、体重に比して酸素消費量が多い(活性酸素の発生が多くなる)動物は、寿命が短くなると考えられている。

 人間の場合は、よほど過度な運動でない限り、体を動かし、スポーツを楽しむことは体に良い影響を与えてくれるし、様々な側面から、適度な運動は健康を維持する上で必要とされている。酸素消費量が増える=代謝が盛んになって活性酸素の発生量が増えても(疲労しても)、それを解消してくれる酵素の働きがある(疲労回復できる)からだ。

 ところが、寿命が短いハエのような動物は、代謝が高く体内に活性酸素が産生される量が多いにもかかわらず、それを解消してくれる酵素の働きが弱いので、飛翔行動などの「運動」によって産生された活性酸素は消えずに体内に蓄積していく。つまり、人間とは違い、「運動するほど疲労は蓄積していき、老化が進む」状態となる。
 これを裏付ける話として、狭い容器で飼育したハエ(運動量の少ないハエ)が、広い容器で飼育したハエ(運動量の多いハエ)より長生きするとか、翅を除去して飛べなくしたハエが、翅があって自由に飛び回れるハエよりも長生きするというデータがある。運動するたびに疲れが溜まり続け、ちっとも疲労回復しないで老化していくのがハエである、と書くと、なんだかハエが大変気の毒になってくるが、だからといって、長生きする代わりに飛べないハエというのも、ハエとしてどうなのか、と思うんだが。

 ということで、羽化した後も、そのままシャーレに入れっぱなしで飼育したヤドリバエ君は、狭い空間も幸いして長寿につながったと言えそうだ。運動不足は長寿の秘訣。ハエに限っては確かにそういことになるんだろうが、それもなんだかなあ…

a0021929_5293853.jpg最晩年のヤドリバエ。翅はぼろぼろになったが、最期まで大切な脚のお手入れに余念はなかった。2011年1月4日撮影。

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by terrarossa | 2011-10-07 05:39 | いきもの