2009年 04月 19日
ちいさいおともだちはじっくり育つ
 そいつとの邂逅は5月中旬だった。

 とあるアスパラガス畑で見事に保護色のイモムシを捕獲。てか、最初は虫がついていることに気づかず、危うく握りしめるところだった。なかなか美しい色合いだったし、なんというか、気持ちいいくらいアスパラをぼりぼり食っていたので、そのまま持ち帰り、職場の自分の机の上で飼ってみることにした。だいたいこの手のガは、早いとひと月あまりで一世代経過する。捕獲した時点でかなり大きかったので、わりとすぐ蛹になって、あっという間に成虫になるだろうと思っていた。

 ということで、シャーレ内で飼い始めた謎のガの幼虫、そりゃねえだろうというくらい尋常ならざる食欲で、まさに鬼気迫る食いっぷり。数日後に脱皮すると、更に模様が派手になるとともにおそろしく巨大化し、いただいてきたくずアスパラを次々と投入するも、あっという間に完食。最初は多少余裕のあったシャーレだが、すっかりメタボ体型になってしまったイモムシ君は、今や膨らんだ体がガラス面にくっついて、もぞもぞ動くたびに重いフタがかちゃかちゃ音を立てるようになってしまった。放置すれば容器ごとひっくり返されて脱走という事態に陥ることだろう。虫嫌いの同僚もいるので、これではまずい。

 しかしそれから間もなく、嘘のようにぱったり餌を食べなくなり、落ち着きなく動き回るようになった。多くのガは、蛹になる直前にこのような行動が見られる。そこで、カップ味噌汁の空容器に、細かくちぎったトイレットペーパーを入れ、その中へ移しかえた。土中で蛹化する種類なのだとしたら、敷き詰めたトイレットペーパーを適当に綴り合わせて蛹になるはずだ。

 ところが、それから何日経っても蛹になる様子は全くない。かといって餌を食べることもない。ぱっつんぱっつんに膨らんでいた体はどんどんしぼんでちぢんで、全盛期(?)の半分近くまでサイズが落ちてしまった。動きはすっかりにぶくなったが、容器を動かすともぞもぞ動く。たしかに生きている。しわしわ状態ながらもとりあえず生きているようだからと、乾燥しないよう時々水を与えながら飼育を継続、そしていつの間にか三ヶ月が経過。暑い夏が過ぎ、秋になっていた。蛹化せずに三ヶ月経過ってどうすりゃいいんだ?今後の処遇を如何にすべきか……と思い始めていたある日のこと、そいつは突然蛹になったのだった。
 
 もう寒くなる時期だし、このまま越冬するのかもしれないと覚悟を決めて、さらにカップ味噌汁の容器内を机上に置くこと二か月。いいかげん寒くなって、コート無しでは耐えられなくなった11月上旬、なんとそいつは羽化して成虫になったのだった。なにもこんな寒くなる時期にガにならなくたって……とつい思ってしまうような生態のそいつは、アヤモクメキリガという名前のガだった。成虫で冬を過ごすガは、フユシャクなど一部の種類を除いてほとんどいない。ついでに前蛹(=ぜんよう:蛹になる前に幼虫のままじっとしている状態)で三ヶ月も夏眠するガというのも珍しい。なんとも派手派手しい色合いの幼虫だが、それほど多く見られるわけでもなく、さらに成虫は他の夜行性のガのように燈火に集まることはほとんどないので、狙って捕獲することは難しいそうだ。

a0021929_2515179.jpg別ショットはこちら。見事な保護色。

a0021929_2521437.jpg脱皮後、さらに食欲増進し、はちきれんばかりに膨らんだ幼虫。ちょっかいを出すと頭を内側にくるんと丸める。シロシャチホコフクラスズメとは動きの方向が全く逆。反り返られると威嚇されてる感じがするが、内巻きだと「いやん」のポーズに見える。ちょっとカワイイ……かも。体長約5センチほど。この後、嘘のようにしぼんでしまうが……

a0021929_2523417.jpg9月上旬、突然蛹化。

a0021929_2525045.jpg11月上旬、突然羽化。幼虫時代からは想像もつかないような地味ーなお姿。だが、すっかり葉の落ちた季節に活動するのだから、これが身を隠すために丁度良い色合いなのだろう。
 この後、野外へ持って行き、さようならする。

 ガの飼育が半年間にも及ぶうちに、同僚のうちの何人かは「ちいさいおともだちはまだ生きてるの?」と時々たずねてくるようになった。あれから元気で寿命を全うしたかなあ……
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by terrarossa | 2009-04-19 03:02 | いきもの | Comments(5)
Commented by 東風 at 2009-04-20 06:54 x
こんにちは。蛾の飼育状況って初めて見ました。
アスパラガスで大きくなるなんて、なんとも興味ぶかい蛾ですね!
(まるで栄養ドリンクのんで大きくなるみたい!)
蛹化したときの写真の上にあるモノは何でしょう?
これは昨年のお話でしょうか?とすると、ドイツにいってらした時はさなぎのままだったのかな?
Commented by terrarossa at 2009-04-20 21:49
東風さん、鋭いツッコミありがとうございます(笑)。
お察しのとおり、管理人が海外ミッション遂行中は、いつ羽化するともしれぬ蛹の状態でした。ということで留守の間、乾燥しないよう、同僚に面倒を見てもらってました。もし羽化しちゃったら冷蔵庫に入れといてね(代謝を下げて消耗しないようにするため)、ともお願いしてたのですが、羽化はそれから一か月半も後のことでした。

蛹の上でくちゃくちゃに丸まってるのは幼虫の脱皮殻です。ヘビと同じような感じですね……
Commented by chemmy at 2009-06-15 12:06 x
はじめまして。
アヤモクメキリガの幼虫を拾いまして、調べていたらこちらのブログにたどり着きました。
実際に飼育記録のあるサイトがなかなか無かったので、大変参考になりました!
ありがとうございます。

飼育にあたりお聞きしたいのですが、
うちの子が最近夏眠に入りました。
terrarossaさんは夏眠の間も乾かないように水を与えていたそうですが、実際どのようになさっていたのでしょうか?
直接水をかけたら窒息してしまいそうですし、霧吹きでかけるにも一度寝床のティッシュをよけてやらないといけないですし…

飼育経験のあるterrarossaさんに是非教えて戴きたいです。
突然の質問で申し訳ないのですが、何卒宜しくお願いします。
Commented by terrarossa at 2009-06-15 23:54
chemmyさん初めまして!ようこそいらっしゃいました。
アヤモクメキリガの幼虫、色といい大きさといい
つい飼育したくなってしまう虫ですよね。
実は今年も1個体を捕獲しまして、現在、職場の机の上で夏眠に入っております。
昨年同様、カップ味噌汁の空容器使用です。

自然状態だと土中で夏眠するので
周囲が適当にしっとりしていればいいのではないかと思います。
カップ味噌汁のプラスチックのフタは、密閉しすぎず乾きすぎず
ちょうどいいので、飼育容器としては最適です。
飼育下では、ちぎったトイレットペーパーを自分でちょっとかじって居心地いいように囲った中で過ごしているので
1~2日おきくらいに、乾き具合を見ながらトイレットペーパーへ向けてしゅっと霧を吹いてやる程度でいいのではないでしょうか。
私の職場にはあいにく霧吹きなどといった気の利いた物はないので
水で濡らした手をぱっぱっと容器の中へ向けて振るという、かなりいい加減な水分補給を行ってました。
トイレットペーパーにカビが生えるほどの過湿になったり、幼虫の体に直接水がかかったりしないように注意しましょう。
Commented by chemmy at 2009-06-18 10:12 x
御教授ありがとうございます!
早速、霧吹いてみました。
私も職場で飼育しているのですが、部屋が乾燥しがちなので良いかんじです。

やはり!ティッシュをかじっているのは寝床を造っているのですよね!
ちょっとずつティッシュをハミハミしている姿が可愛すぎて可愛すぎて…。
寝返りをうつ様子なんかは、もう嗚咽をもらしてしまうほど愛おしくてたまりませんね。

立派な成虫に育つよう頑張ります!また何かありましたら宜しくお願いします!


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