2008年 10月 11日
ドイツのサッカーを見に行く その五:選手と会う
 練習を終えた選手たちがグラウンドを出て行く。いずれもウェブ上の写真などで見知った顔だ。出入口にはセキュリティのおじさんが一人立っているだけ。その傍らで、怪我も癒え、いよいよ次の試合から復帰するらしいゴールキーパーのアドラー選手が、常連とおぼしきじいさんと何やら話をしている。
 あまりにも人が少ないと、かえって写真を撮りにくい。それでなくてもこの状況で、アジア人は目立つ。浮きまくっている。わりと長い時間見学していたのに、結局ほとんど練習中の写真は撮っていない。

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唯一撮影した集団のショット。練習がひととおり終わって遊んでいるらしきところ。手前ではコーチ陣が首脳会談。

 言葉もわからないので、声をかけたりサインをお願いしたりすることもできず、目の前を通り過ぎていく選手たちをただぼんやり見送るだけ。というか、そもそも今まで、プロのスポーツ選手に声をかけたりサインをもらったりしたことはなかったし、そういうものが欲しいと思ったこともなかったのだ。
 しかし、ちょっと気になっていた選手が観戦予定の試合に出られなくなったと知って、黙ってはいられなくなってしまった。三日前の試合で、イエローカードを2枚もらって退場になり、次節出場停止になってしまったマヌエル・フリードリッヒ選手のことである。わざわざドイツくんだりまで試合を見に来たこちらとしても涙目な状況だが、退場になったその日は、なんと彼の誕生日。向こうだって踏んだり蹴ったりの、まさにアンハッピーバースデーだったのだ。
 ところで彼は、今この現在も、自分にとっては謎の人だ。ドイツ代表に選ばれるレベルの実力派センターバックだが、プライベートが取りざたされるようなスター選手ではないので、プレーヤーとしてのデータ以外の情報を得ることがなかなかできない。そういう限られた状況で、「勝利の後、ゴール裏に向かって全力ダッシュ&ヘッドスライディングを先導、実行」とか「お立ち台で拡声器片手にシュプレヒコール」とか「どう見ても偶然としか思えないロングクロス崩れのスーパーゴールを決めて、ハイテンションで喋りまくるインタビュー映像」などといった動画がネット上に残されている。てか、前に紹介したサインカードのガテン系コスプレで、芸術のために(←嘘)潔く脱いじゃってるのが彼その人である……という風に極めて断片的な情報を並べてしまうと、まるでネタ提供キャラのようである。いや、そんなはずは(確証がもてないあたりが弱いところだ)。写真を見てる限りでは、陽気ではっちゃけた人と言うよりは、むしろそれとは真逆の、静かで落ち着いた佇まいを感じるのになあ。謎は深まるばかりである。

 さて、この極めてギャラリーが少ないゆるゆるな状況の中、件のフリードリッヒ選手が出口に向かって歩いてくる。残っている選手はもうほとんどいない。いやがおうにも緊張感が高まる。が、そのまま出てくるかと思ったら、ピッチ上に散乱しているペットボトルを丁寧に拾い集め、いきなり片づけ作業を始めるではないか。チームでは年長の部類に入る彼がなぜ?と少々疑問に思う。出場停止のペナルティなのか、それとも、こういうことをさらりとやってしまう素敵な人なのか。後者であってほしいんだが。
そして「お片づけ」も済み、いよいよ彼がグラウンドを後にする。目の前を通り過ぎてゆく。前述したとおり、こういう試みは全く初めてである。言葉もわからない。どうしようどうしよう。
 「え、えくすきゅーず・みー」
 出てきた言葉はトホホなうっすら英語、それだけだった。だが彼は振り向き、「何か?」という感じでにこりとほほえんだ。うわ、ほ、ホンモノだー!(何を今さら)
 「はじめまして、わたしは、にほんからきました。わたしは、こんしゅうまつのしあいをみにいきます。しかし、あなたは」
もうやぶれかぶれのジャパニーズ・イングリッシュ(まずい教科書朗読調)である。それがどうやら奇跡的に通じたらしい。なぜなら彼は「ばっと・ゆー・きゃんと……」とこちらが言い終わらないうちにちょっと顔をしかめて「あー、やっちゃったんだよねえ」と肩をすくめてみせたのだ。
 サインをお願いすると、彼は両手にぶら下げていたプロテクターやら目印用のコーンをそのまま地面にぼとぼと落とし(置いて、ではなく)、その場で快く応じてくれた。急ごしらえのバースデーカードを渡し、最後に写真撮影をお願いする。じゃ、そこで……と言い、離れてカメラを構えると、彼は「えっ?」という感じの、ものすごく意外そうな顔をした。一緒に撮るんじゃないの?と腕をこちらに伸ばしかけてくれていたのだ。だがここで、あろうことか、緊張のあまり一言、「No」と断ってしまった!なんてこった。ほんの一瞬だが、肩すかしを食らってがっかりしたような彼の表情を今も覚えている。いやほんとに申し訳ないことをした。ごめんなさいというほかない。
 身長差があり過ぎて、仰け反りながら撮影したら、なんだかおっかない下からのアオリ構図になったため、すんませんちょっとしゃがんで……と身振り手振りでお願いしたら、あーごめんよ、と笑って中腰になってくれたときのショットがこれ。

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レバークーゼンのディフェンダー、マヌエル・フリードリッヒ選手。

 誕生日に退場くらってへこんでないはずはないというのに、突然やってきたいちファンに対して、律儀にもフルコースのファンサービスをしてくれたのだ。たまたま他に人がいなかったとはいえ、ペットボトルをひとつひとつ拾い集めて片づけていたさきほどの行動同様、非常に丁寧で心のこもった対応だった。プロフェッショナルかくあるべし。やーもー、やっぱりすげーかっこえかった。ツーショット断ってごめんなさいだけど。実際会ったら、謎が解けるどころか、どんな人なんだかますますわかんなくなっちゃったけど。

素敵な笑顔をありがとう。今後なおいっそうご活躍されることをお祈りしています。
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by terrarossa | 2008-10-11 15:55 | サッカー


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