2007年 12月 03日
ヘルプ・ミー・エロス(2007、台湾)
注意!!
以下の内容は、映画「ヘルプ・ミー・エロス」(李康生監督)、「河」(蔡明亮監督)の、ずばり結末のことについて書いたものなので、結末を知りたくない未見の方はお読みにならないで下さい。

 転勤・引っ越し・転勤と繰り返し、いちだんと東京が遠ざかってしまった今、ますます映画を見に行くことが難しくなってしまった。仕事の内容も変わり、家でDVDを見るほどの精神的余裕もないのだから、映画を見なくなったのは物理的距離の隔たりばかりでもないのかもしれない。
 それでも第8回東京フィルメックスでは、二本の映画を見ることができた。
 そのうちの一本が、李康生監督の「ヘルプ・ミー・エロス」だった。
 このひとの作品というと、彼を俳優として見いだした蔡明亮監督とのつながりを、どうしたって意識せずにはいられない。蔡監督がいなければ、彼が俳優として、まして映画監督として映画の世界にいることなど想像もつかないからだ。そういう特別な関係であるからこそ、李康生という俳優がみずから映画監督になったとき、師匠である蔡明亮の作品そのままの世界になってしまうとしても、ある程度はやむを得ないだろう。彼の監督としての第一作「迷子」は、まさにそうだった。けれど、「迷子」は、同時期に発表された蔡明亮監督の「楽日」と対をなす内容となっていて、似通っているからこそ、互いの作品世界に深みと厚みを与えあうような相乗効果があった。

 さて、今回の「ヘルプ・ミー・エロス」は李監督の長編二作目。仕事に失敗し、絶望する男の性愛の物語とのことだが、正直、うーむ……といったところ。二作目ということで監督業もこなれてきたようだし、前作の「迷子」とくらべると、自分のやりたいことができるようになったらしいことがうかがえもした。が、だからこそ、中途半端に今あるところから脱却しようとして、結果的には蔡明亮のもとへ引きずり戻されてしまったような居心地の悪さばかり感じられて仕方がない。
 この映画には(「も」と言った方がいいかもしれない)、孤独な人たちが次々登場する。主人公などは、絶望して自殺を企てるところまでいくのだが、その割には、彼を気にかけ、その体に触れて、濃密な行為に及んでくれる人たちがいたりもするのだ。金払ったって触れてくれる人など誰もいない、という訳じゃない。肉体的接触ですら、なんのなぐさめにもならなかった、ということかもしれないけれど、なんだかなあ。感じるところは人それぞれだろうが、個人的には、いまひとつ説得力に欠けるような気がしてならなかった。
 結局最後は、夜、開け放たれた誰もいない窓、大量に舞い散るハズレ宝くじ、で終わるのだけれど、そこには「Hole」のようなカタルシスも、「河」のような苦い現実感もない。
 「河」も、開け放たれた窓(バルコニー)のシーンで終わる。首が曲がったままの主人公の姿が一瞬見えなくなり、絶望のあまり飛び降りを図ったのか、と思わせるが、次の瞬間、曲がった首をさすりながらたたずむ彼の姿が再び現れる。そう簡単に現実は断ち切れないのだ、という強烈なメッセージのようなものが伝わってくるラストシーンだった。
 李監督によると、ラストシーンはあえてどうとでも解釈できるようにした、ということだが、それこそがこの作品の最大の弱点だったように思う。そもそも作品全体がマリファナでけむっているような世界だから、もやもやしてるのは仕方ないってか。

(シラフで映画を見ている方としては、クスリ頼みの場面になると、途端にしらけてしまう。話は飛ぶが、昨年、東京国際映画祭で見た、鄭有傑監督の「一年の初め」はそういう意味で大きな失望を感じた作品だった。前作の「シーディンの夏」をものすごく気に入ってしまっただけに、百年の恋が冷めるが如くがっかりしてしまったことを覚えている。いや、だからって、なにもクスリが出てくる映画が全部ダメということではない。問題は、もっとも重要な場面とおぼしきところでドラッグを使っちゃった、ということにある。肝心なところをシラフで乗り切って欲しかった、と今更ながら勝手なことをここでほざいてみたりもしたくなる。)

 映画祭なので、「ヘルプ・ミー・エロス」上映後、監督へのティーチ・インというのがあったのだが、観客の質問に対して長々と語りだしたのにはびっくりした。あの無口で、口下手だった「シャオカン」が、いつのまに師匠・蔡明亮そっくりになって!
 映画監督としてはまだまだ駆け出しの李康生に、今回は苦言ばかり並べてしまったが、師匠の影をひきずりながらも彼がこれからどこへ向かっていくのか楽しみでもある。日本での上映の機会があれば、多少無理をしてでも彼の作品を見に行かずにはいられないだろう。たとえ期待はずれで、ぶつぶつ文句をたれるはめになったとしても。
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by terrarossa | 2007-12-03 03:05 | 映画


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