2005年 03月 27日
台湾のアッパレなラッパーたち
 中国語圏の人たちはバラードが好きだ。
 むこうに行ってMTVを流しっぱなしにするとよくわかる。よくもまあ、似たようなバラードばっかりオンエアして飽きないものかと感心するくらいだ。当然、ヒットチャート上位にあるのはおおむねバラードナンバーである。最近、音楽シーンも世代交代が進んで若手がどんどん出てくるようになったので、ちょっとは変化もあったかと思っていたが、やっぱりバラード強し、だ。
 中華圏の映画をよく見るようになっても、バラードが席巻する音楽方面にはどうも食指が動かなかった。自分がもともとバラードを苦手としているからだ。(もちろんいいとか悪いとかではなく、単純な個人的嗜好の問題にすぎないことは言うまでもない。他人にどんなにいいよと勧められようが、心に響かないものをじっくり聞かされることほど苦痛なことはない。音楽の好みは理屈じゃない。ただ好きか、好きでないかだけだ。)

 年末年始に台湾を一回りしていた時のことだった。
 大晦日は台湾の最南端の安宿に泊まっていた。テレビでは、年越しイベントの歌番組を放映していた。その夜は台湾南部にあるまじき寒さで、暖房設備のない部屋で布団にくるまって、震えながら歌番組でも見ているほかなかった。入れ替わり、色々な歌手が登場しては持ち歌を歌う。案の定、ほとんどがバラードだ。それでも眠るのはまだ早いし、他にすることもなかったので、惰性で見ていると、ひょろんとした坊主頭のにいちゃんがにこにこしながら登場してきた。
 年越しライブなのに、やけに地味な格好だな……ヒップポップ系の人ならこんなもんか(←乱暴な決めつけ)。ゆるいラップでもやるのかしらん、と思っていたら、予想に反してずっしり重いビートでもって曲が始まる。そしてそこに絡んできたのは、ダークで意味深なラップ。
 なんだなんだ、すんげえかっこいいぞ!
 思わず画面を食い入るように凝視してしまった。台湾にもこんな歌手がいたのか!
 これが、黄立行(Stanley Hwang)との記念すべき(?)出会いだった。

 さて、この一目惚れならぬ「一聴き惚れ」してしまった黄立行、音楽のキャリアはけっこう長く、以前に兄と従兄弟で結成した「L.A.boyz」という3人組のアイドルグループで一世を風靡したらしい(ただし、3人のルックスはお世辞にもアイドルとは言い難い)。その「L.A.boyz」のアルバムも聴いてみたら、悪いが相当トホホな感じだったので、ある意味驚いた。アイドルグループっぽいぺらぺらなサウンドは、当時(約10年前)の流行だったのかもしれないが、歌は斉唱、しかもへなへなでガッカリ。バラードなんて聞けたものではない。ラップナンバーも当時としては斬新だったとはいえ、決して上手いとは言えず、今の彼を考えると、よくもここまで大化けしたなという一言に尽きる。

a0021929_820046.jpg 黄立行のアルバムで一番最初に聴いたのが、最新アルバムの「黒的意念」だった。
バラードや、ストレートなロックナンバーも入ってはいるものの、これはもう完全に(自分の大好きな)リンキン・パークとか、リンプ・ビズキットといった、いわゆるラップ・メタルとか、ミクスチャー・ヘヴィ・ロックと言われている類だ。あらためてリンキン・パークのPVなどを見てみたら、スタイルまでもがあまりにも彼らと酷似していて、ちょっと驚いたと同時に、彼がアメリカ・LA育ちだということを知って、納得もした。
 過去のアルバムを聴いてみると、中国語圏にありがちなバラードや、こちらが気恥ずかしくなるくらいのまっとうなロックンロールナンバーが大半を占めている。しかしやはり、ところどころで内へ内へと籠もってゆく鬱屈の片鱗のようなものはちらほら見える。ファーストアルバム「[イ尓]身邊」にも、少ないがラップナンバーが入っている。二枚目「馬戲團猴子」、三枚目「STAN UP」と行くに従って攻撃的な歌が増えてくのが興味深い。
 そして、溜まりに溜まった鬱屈を一気に噴出させてしまったような感があるのが、最新アルバム「黒的意念」だ。赤い炎がもっと温度を上げて青い炎になってしまったかのようだ。やり場のない憤懣と虚無のにおいを漂わせた攻撃的なラップはまさに「酷(クール)!帥(かっこいい)!」。日本盤が出てないのがほんとに惜しい。きちんと宣伝したら、かなり相当イケるんではなかと思っているのだが。
 そういえば、なぜか日本でこのタイプの重厚な音をもってくるラッパーは、メジャーシーンでは見かけないような気がする。今どきの日本のメインストリームであろう、ゆるめのすかすかなラップミュージックも悪かないんだが、やっぱり自分は、音楽も腹にずっしりたまるものが好きなのだと再認識する。ギンギンのヘヴィーなサウンドに叩きつけるようなラップが乗っかる快感といったら!

 そして「L.A.boyz」解散後、兄の黄立成(Jeffley Hwang)もまた、数年のブランクの後、音楽活動を再開していたことがわかった。早速、彼がリーダーを務める「黄立成&麻吉(Machi)」というヒップホップグループのCDも聴いてみることにした。
 なんとそれが、弟の音楽と全く違うのに、(自分の中で)ストライクゾーンど真ん中だったのだ。面白い!

a0021929_8204431.jpg 黄立成のサウンドは陽気でウィットに富んでいる。ヒップホップのメインストリームを歩んでいるのだなという印象だ。弟の「陰」に対し、兄は完全に「陽」だ。実に対照的な兄弟だなあと思う(見た目もそんな感じだ)。
 そもそも打ち込みにターンテーブルにと、リフレインする機械音を駆使しまくる宿命ゆえ、とかく薄っぺらで無機的な音に陥りがちなラップミュージックだが、彼らのラップからはアジアな湿度と体温がしっかりと感じられる。彼らが音楽を、ラップを楽しんでいることが伝わってくる。それでいて響きは痛いほど攻撃的で刺激的だ。ビートも軽快だけどしっかり厚みと重量感がある。
 これには、彼らの音楽性に加えて、もっと根本的な、中国語の語学的な特徴が関わっているのかもしれない。
 何せすばらしく歯切れがいい。言葉がずばずばとつき刺さっていくような印象だ。当たり前といえばそうだ。中国語は一語一語が非常に短い。しかも漢字一文字が非常に多くの意味と情報を持つ。これほどラップに向いた言語は他にないんじゃないだろうか?
 ただ、メッセージこそが重要な「ラップ」ゆえ、外国人にとって意味がわからないというのが致命的だったりする。しかも彼らのラップはほとんどが「地元」でしか通じない言葉、台湾語だ。
(個人的には、自分にとって音楽はまず「音」で、歌詞の意味は重要でない、という聴き方をするので、台湾語がわからないことに関しては全く気にならないが)。
 
 残念なことに、黄立行も黄立成も、本国台湾では「本格的」すぎるのか、一部で話題にはなっても、いまいちブレイクしきれていないらしい。相変わらずバラード全盛の台湾音楽シーンにおいて、相当苦戦を強いられているポジションにあるようだ。だがこれからも、売れ筋狙いのバラード方面などには行かずに、ぜひ我が道を邁進していただきたいものである。
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by terrarossa | 2005-03-27 08:27 | 音楽


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