2004年 12月 22日
ワイキキ・ブラザース(2001、韓国)
a0021929_1123879.jpg なにやら南国ムード溢れるタイトル。DVD(韓国版)のパッケージ画像は、チョアー!ってな感じのリュ・スンボムを前面に、グループサウンズ風ひらひら衣装のバンドメンバーたちがにこにこ微笑んでいる。なんとも明るい雰囲気に、音楽コメディ映画なのかしらん、と予想してみたりする。
 ……全然そんなんではなかった。夢破れ、中年にさしかかった大人たちの、苦い苦い現実をリアルに描いた物語だったのだ。や、確かに、ロス・ロボスの「ラ・バンバ」なんぞが高らかに歌い上げられたりするから、もうちっと救いようのある話かと思っていたのだが。
 パッケージのリュ・スンボム君大フューチャーは、せめてポスターだけは軽め・明るめにしようという宣伝上の配慮だったらしい。

 この映画は、日本では2001年の東京フィルメックス、2002年のあいち国際女性映画祭で上映されたのだが、見逃してしまった。その後の公開はなく、韓国版DVDを購入して見た。ついでにサントラも手に入れた。
 
 音楽で生きていくことをめざし、念願どおりプロとなったソンウ。しかし現実は厳しく、彼はうだつの上がらない三流バンドのリーダーとして、ドサ回りの日々を続けていた。三十代も半ばにさしかかったというのに、安宿に共同で寝泊まりし、まともに食べていくことすら危うい生活。そんなある日、高校卒業以来、一度も帰っていなかった故郷にあるナイトクラブからお呼びがかかり、彼は15年ぶりに昔の友人たちと再会した。 
 高校時代、いちばん輝いていた季節の思い出がふと甦る。ミュージシャンに憧れ、仲間と練習を重ねた日々。同じ町のガールズ・バンドには、とびきり上手いボーカルの子がいた。彼女は初恋の人だった……
 だが、旧友たちは皆、とうに音楽への夢をあきらめ、順調とは言い難い毎日の生活に追われていた。
 しぶとく夢を追いかけて音楽を続けているはずのソンウも、状況は彼らと同様だった。思うような音楽活動ができない現実に耐えかねて、一人また一人と、メンバー達はバンドを離れていく。
 
 地方の田舎町での日常をどんよりと過ごす大人たちを、丁寧に、リアルに描いている。濃いキャラクターを登場させてみたり、明らかにコメディを意識して、コミカルさを狙ったとおぼしき場面が頻繁に出てくるが、あまりにもやるせない状況ゆえに、そのもくろみが全く成功していない。なのに、不思議と笑えたりもする。渦中の人間は大真面目に足掻いているのだが、かえってその必死さがどうしようもなく滑稽で、もう笑うしかない、そういう感じだ。ああ、これは「自嘲」ってやつなんだな、と思い至るのにさして時間はかからなかった。物語と、自分の今いる位置がダブって見えるがゆえの嘲笑だ。だって、不況にあえぐ地方の町、という構図はここと変わらないのだ。農協まつりなんて、雰囲気も内容も全くおんなじじゃないか(ミスコンが「ミス・とうがらし」というのが、韓国ならではだけどさ)。ムード歌謡全開バリバリの田舎のカラオケスナックも、温泉旅館のナイトクラブも、まさにあれだ。あんまり似すぎて唖然としたよ。
 物語はとことん泥臭くみっともなく、この世の無常さを説いているのだけれど、ラストシーンにほのかな希望が感じられたのが救いだ。そう、さして良くはならないし、もっと悪くなったりするかもしれないが、それでも人生は続いていくのだ。
 しかし、韓国の人たちはよく飲むなあ。画面からアルコール臭が漂ってきそうだ。

 特筆すべきは、キャスト陣の豪華さ(?)だ。無名俳優を起用し、二枚目は誰一人として居ない。が、その出演者の多くが、今や様々な作品で、個性派俳優として活躍している。こんな顔合わせはもう二度と実現しないんじゃないだろうか?イム・スルレ監督の眼力、恐るべし。
 主人公、ソンウを演じているのは舞台出身だというイ・オル。ナイトクラブで、酔っぱらったオヤジたちがホステスのオネエちゃんを裸にし、さらに自分たちもすっぽんぽんになった挙げ句、ギターを演奏していたソンウに「おまえも脱げやー!」と脱衣を強要するシーンが、とりわけ印象的だった。素っ裸にされてもなお、辛気くさい表情のまま淡々とギターを弾き続ける「裸ギター兄貴」(←一緒に映画を見ていた友人が命名)、イ・オルの強烈なインパクトたるや。圧巻の一言である。
 彼は「純愛中毒」でイ・ビョンホンの兄役を演じ、「春の日のクマは好きですか?」でも最後、わずかな出演シーンながら強い印象を残した。「ワイキキ・ブラザース」ではうらぶれた寡黙なミュージシャンを見事に演じているが、最近の出演作であるキム・ギドク監督作品「サマリア」での刑事役も、非常に高く評価されていると聞く。今から公開が待ち遠しい。
  ソンウの少年時代を演じているのが、「殺人の追憶」や、「嫉妬は我が力」での演技が認められ、今や若手のホープと言われているパク・ヘイル。これが映画デビュー作らしい。
 涙もろいドラマーのカンスは、やはり舞台出身のファン・ジョンミン。彼はもともと歌って踊れるミュージカル俳優で、ドラムもこの映画のために特訓してマスターしたそうだ。「ロードムービー」、「YMCA野球団(日本版DVDタイトルは「爆烈野球団!」)」と、出演作を立て続けに見たのだが、作品ごとに全く雰囲気が違っていて、まるで別人。もはや「驚愕」の域だ。先頃ロードショー公開された「浮気な家族」にも、主人公ムン・ソリの夫役で出演している。
 この映画で唯一はじけている金髪頭のにいちゃん、ギテ(ナイトクラブのウェイター)を演じているのはリュ・スンボム。シンセサイザーのちゃらい自動演奏をバックに、調子っ外れな歌を歌いながらくるくる踊っている彼は、まさにオアシスのような、「癒し系」のキャラクターだ。
 「品行ゼロ」では、前時代的な少年漫画のキャラクターみたいな役だった。でも、このひとの場合は、「ムッチマ・ファミリー」で演じていたホテル従業員のような、どっかネジが外れていて、すっとぼけた感じの役の方が合っている。そこにいるだけでおかしくて笑える。そういう意味で、すごく存在感のある俳優だと思う。
 バンドにさっさと見切りをつけて、物語前半で姿を消してしまうサックス奏者を演じたオ・グァンロクは、なんと「オールド・ボーイ」の冒頭に出てくる、犬を抱いた自殺志願の男であり、「春の日のクマは好きですか?」ではペ・ドゥナの父親役(浮世離れした、妙ちきりんなオヤジだった……)を演じていた俳優だった。このひとも相当な曲者に違いない。

 イム・スルレ監督の近作は、間もなく日本公開が予定されているオムニバス映画「もし、あなたなら~6つの視線」の中の1本。太った女性がいかに差別されるかということを描いたきっついブラックコメディで、これも明らかに笑いの種類は「嘲笑」。にもかかわらず、卑屈さや、馬鹿にしているような感じが全くないのは、監督が、登場人物と自分とを同じ位置に据えて映画を作っているからだろうか。クリエイターにありがちな、別の高みから見下ろしているような傲慢な視線は微塵も感じられない。
 映画には監督本人の登場シーンもちょっとだけあり、出演者に「えっ、あの太ったおばさんが監督?」という台詞を言わせたりしている。こういう映画監督はあまりいないような気もする。かっこいいよ、姐さん。
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by terrarossa | 2004-12-22 01:43 | 映画 | Comments(5)
Commented by 潮来ラブ at 2004-12-22 06:44 x
イム・スルレ監督のセンス、私も大好きです。商業的にはなかなか難しいのかも知れませんが、もっと作品を見てみたい監督です。ところで、ビョンホン新作「甘い人生」に出演のファン・ジョンミンって、男ファン・ジョンミンのようですね。ヤン・ドングンとの共演作「最後の狼」は公開されないのでしょうか?(やっぱ、韓流系アニキの作品じゃないと、ダメ?) 
Commented by terrarossa at 2004-12-23 00:33
「甘い人生」、韓国ノワールとか言われてますが、ということは、濃厚なホモソーシャル映画なんだろうか。ファン・ジョンミンは、バイプレーヤー的地位を固めつつあるのかも?その内、イ・デヨンさんのように、出演作が多すぎて追い切れないような俳優になったりして。
何のかんの言って、色々な映画を見ることができるのも「韓流」のおかげです。ありがたや。ついでに(ついでかよ)「最後の狼」、どっかでやらないもんでしょうかね?
Commented by kaitak9875 at 2004-12-24 10:05 x
こんにちは。トラックバックありがとうございます。kaitak9875です。
ファン・ジョンミン氏のファンの方と出会えるなんて、うれしい限りです。
韓国映画の入口が「ロードムービー」とは渋いですね。私はありきたりな「八月のクリスマス」です。
「甘い人生」、楽しみですが、インパクトあるメイクされてますね。夢に見そうです。
キム・ジス氏共演の「女、チョンヘ/여자, 정혜」も楽しみですし、「あなたは私の運命/너는 내 운명」でのチョン・ドヨンとの演技合戦も楽しみです。
もうずいぶん前に観たので、細かいところまでの記憶はあやふやですが、「東宮西宮」も好きな映画でした。
でも、あの暗く重く隠微な雰囲気は無くなってしまったんですね。
テラロッサさんの物事を捉える視点と文章のリズムがとても心地いいので、またちょくちょく遊びに寄らせていただきますね。
「ロードムービー」についての記事、楽しみにしています!
Commented by terrarossa at 2004-12-25 23:04
kaitak9875さん、ご来訪いただきありがとうございます。どうにも話題がとっちらかっているブログですが、楽しんでいただければ幸いです。
 今、日本のテレビでは、あちこちで韓国ドラマを放映しているというのに、どうにも観る環境になく(物理的にも時間的にも)、時々映画をぽつぽつ見ているだけにとどまっています。てか、映画の日本公開作があまりにも多くて、当分それで精一杯。
 ファン・ジョンミン氏、そんなに出演作が控えているのですか(しかもチョン・ドヨンと共演ですかー!?)。それは楽しみです。
Commented by サンカ at 2005-01-14 21:09 x
遅ればせながら・・・むか~しのぐるーぷさうんず?はたまたハワイの若大将?つーよーなパッケージもすごいけど、出演者がまたスゴイっすね。。。


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