2004年 10月 13日
黒椿とヤマナメクジ
 ある時、京都府の日本海側に位置する加悦町(かやちょう)というところに「滝の黒椿」という樹齢1000年を超える椿の巨木があるということを知り、見に行きたくなった。当時、時間はあったが金がなかったので、友人と共に普通列車と路線バスを使い、12時間ほどかけて彼の地に降り立った。ところが、黒椿がある地区は、だいぶ以前に廃村になっており、当然路線バスなど通っているはずもなかった。ということで、霧雨でじっとり濡れながら山あいの道を2時間ほど歩く羽目になった。
 やがて、うち捨てられ、崩れかけた廃屋が点在する集落跡が見えてきた。草はぼうぼうで、木々が道に覆い被さるように茂っている。ただでさえ薄暗いのに雨が降っていて、いっそう不気味な雰囲気だった。椿は、そんな緑に埋もれるようにして、山の斜面にひっそりと立っていた。近づくと、つややかな濃緑色の葉の合間に、小さめの臙脂色の花がぽつぽつ咲いているのが見えた。
 確かに見事な巨木だったけれど、何せ周囲の緑が濃いのと雨で薄暗かったので、ほんとうに埋もれるように、忘れ去られたように、寂しくそこにあったのが印象的だった。一方で、そんな佇まいがこの木にはとても相応しいように感じたのだった(今は、木の周囲はきれいに整備されているようなので、うら寂しい雰囲気はあまり感じられないかもしれない)。

 さて、椿を見終えて来た道を戻ることにした。いつの間にか雨は上がり、雲の切れ間から時折日が差すようになってきた。雨上がりの山道を、はやくも翅が乾いたチョウが飛び交う。道の脇にはだいぶん水かさを増したと思われる小川が流れている。と、ここで信じられないものを目撃した。
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 およそ都市部では見かけることのない、直径3㎝、長さ15㎝の巨大ナメクジだった(写真)。一緒に写っているのは同行した友人の手である。
 知ってる人からしたら「何をこの程度のことで」と言われるようなことかもしれないが、この時は大真面目に「生きていると、色々なものに出会うのだなあ」などと感慨にふけったのだった。
 ツノが体の大きさに比してやけに小さく見えるのが何だかとても可愛らしい。ようはツノだけ標準サイズなのだ。指で押すと、体は弾力に満ちあふれていて、むっちむちである。
 やがてそいつは水べりをのたーっと移動し始めた。が、目測を誤ったのか、ぽちゃんと水に落っこちて、渦巻く水の中、くるくる回転しながら流れ去ってしまった。わずか10分間の邂逅であった。
 この、京都の山中で目撃した巨大ナメクジは「ヤマナメクジ」という名で、その名の通り、山の中で落ち葉などを食糧としている種類なんだそうだ。人目につかないところに生息しているだけで、そんなに珍しい種類ではないらしい。こうして目撃できたのも、雨が降っていたせいだろう。
 どうかこれからも山奥でひっそりと暮らしていてほしいものである。
 もしこんなのが人里にうじゃうじゃいて、集団で生ごみをあさっていたりしたら、ただじゃすまないだろうからな。

 長い時間をかけて美しい椿を見に行ったつもりが、帰ってきてみれば、ヤマナメクジとの衝撃的な出会いのことで頭がいっぱい、という顛末。なんだかなあ。
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by terrarossa | 2004-10-13 02:46 | いきもの | Comments(2)
Commented by 潮来ラブ at 2004-10-21 01:08 x
いやぁ、ジェリーの結末よりも怖く、GerryよりもJellyな……。え?ナメクジはゼリー質じゃないって? ……こりゃまた、失礼いたしました。貴重な写真を拝見しました。ここの写真を見てると、虫らも可愛く思えてくるから不思議です。
Commented by terrarossa at 2004-10-22 00:23
 もしゼリーよろしく半透明で、ついでに夜光るようなヤマナメクジがいたらさぞかしファンタスティックでありましょう。ホタルばりに鑑賞会なんぞ開かれたりして。
 ようこそいらっしゃいました。人間以外との「出会い」について書くことが多いブログではありますが、時々覗いていただけたら嬉しく思います。


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